病名について(jive宇都宮)
僕の病名は、現在のところ、「神経膠腫(グリオーマ)星状細胞腫 グレードⅡ」です。クロロ96さんと同じ名前の脳腫瘍です。腫瘍の部位は、右脳運動野です。手術により、7割を切除し、その後、放射線治療を受けました。照射量は、54グレイです。
・・・と書いてはいるけれど、僕はMRIの画像にぼんやり白く映った腫瘍を見ただけで、実際に、自分の腫瘍を見たわけではありません。(家族は、手術後、切除した腫瘍を見たそうです)
医学の専門家であるわけでもないし、インターネットであれこれ情報を見ていく中で、「ああ、そういうものなのか」と思いました。
最初、CTの画像診断の段階では、「脳の中に水が溜まったものかもしれない」とのことでしたが、動脈カテーテル検査の結果、グリオーマであることが分かりました。
病名告知のとき、先生が、黒板(ホワイトボードだったかな?)に、「グリオーマ」という文字を書き、『現在の医学では治せない病気です。現在、インターネット上にある情報以上のことは言えないので、ご自身で調べてください。』という意味のことをおっしゃいました。
主治医の先生や、その場に同席されていた、看護師長さんの表情などからして、「ああ、これは、ヤバいことになっちゃったみたいだな」と感じました。
と同時に、僕の中に、「QOL」という言葉が浮かびました。
僕は、大学で哲学を専攻しました。生命倫理学の講義の中で、「QOL(Quality of Life)」すなわち、「生命の質」という言葉を学びました。
「ああ、これは、QOLの問題になったのだ」と自分の中でスイッチが切り替わりました。当然動揺していたので、何か、自分の中の言葉で、自らに起こっていることを、定義して、状況を冷静に受け止めようとしたのだと、今になって思います。
その後、僕は、ブログや、ホームページなどを通じて、脳腫瘍、中でも、同じ腫瘍である、グリオーマと闘う人たちと、多く出会いました。
発症から、間もなく3年が経とうとしている今、僕は、再び、QOLの問題について深く考えるようになりました。
人それぞれ、個性があるように、たとえ同じグリオーマという病気でも、部位や年齢などによって、違った病状の進行を辿るのだ、と、僕は、この2年半で学びました。
『まだ』という言葉を使うのは、気が進まないのですが、僕は今のところ、まだ、再発していません。
抗がん剤の投与も行われていません。
比較の問題ではないのですが、ブログなどでつながっている方々と比べたら、「状況は良いほう」だと思います。もちろん、これから悪くなることが、ほぼ確実視されていると知った上で、僕はこの文章を書いています。
現時点で、僕にとっての一番の課題は、「てんかん発作(けいれん発作)」です。
薬は、あれこれ試したのですが、発作の発生を抑えることはできず、日常的に、発作が起こっています。
感情の揺れや、疲れ、ストレスが発作を引き起こします。
だから、僕は、テレビも見ないし、本もほとんど読まないし、笑うことも控えているし、怒りは抑えているし、外出も、必要最低限に抑えています。口を使うと、発作になりやすいので、食事にも注意し、人と話をするのも、最低限にしています。からだを動かすと発作が起こるので、散歩も体調が良いときだけ、しかも、ごく短い距離です。
てんかん発作の脅威が無ければ、僕はもう少し、自分に与えられた時間を有意義に過ごすことができるだろう、と思います。でも、それは仕方のないことです。
グレードⅣでも、フルタイムで働いて、ビールが飲める人もいるし、グレードⅡでも、重積発作に苦しむ人もいます。
ほんとうに、ケース・バイ・ケースなのだな、と思います。
てんかん発作に関しても同様です。
僕は、発作中に意識を明瞭に保持しています。クロロ96さんと発作時の状況がとても似ていたので、共感しました。
意識がある、ということが、なにより、僕を苦しめています。いっそ、意識が飛んでくれれば、と思うこともしばしばです。
でも、実際には、意識を保った発作(部分発作)である、ということは、意識を失う発作(全般発作)に比べれば、脳内で発作を起こしている範囲が狭い、ということになります。
[*もちろん、すべての部分発作が意識を保持しているわけではないし、全般発作についても同様だと思います。あくまでも、僕の場合、です。]
誤解を恐れず書くとすれば、僕は「グリオーマの患者としては程度の軽い方だし、てんかん発作も、それほど深刻ではない」ということになります。
特に発作に関しては、部分発作である、ということで、「ああ、それなら平気だよ」という医療サイドの対応をしばしば受けているので、医学的にも、そういう理解なのだと思います。
現在の主治医の先生のお話によれば、「部分発作」というのは、脳の一部分が発作を起こしている状況を指すそうです。
だから、からだの一部だけがけいれんしているとか、けいれんが見られないとか、そういう外見的なことは、「部分発作」と「全般発作」を分ける指標にはならない、ということです。
僕は発症前、養護学校の教員をしていて、当時、いろいろ勉強していたのですが、その点は、誤解していました。
僕がブログに、発作のことを細かく書いているのは、自分の体験が少しでも役に立てば、と考えているからです。
ちなみに、全般発作を起こしたことも何度かあるのですが、そのときは、あっという間に意識を失いました。でも、これも、きっと、その人、その人で状況が違うのだろうと思います。
グリオーマ、という、ひとつの病気に対しても、人それぞれ、これだけ違うのだから、脳腫瘍や、その他の病気に関しても、同様のことが言えるのではないか、と僕は考えています。
正しい知識を得ることはたしかに大切かもしれないけれど、知識を得たことで、物事を、理解したつもりになってしまっては、いけないと思います。
自戒を込めて、書いています。
病名がついているので、僕は、「グリオーマのjiveくん」なのですが、実際には、「jiveくんであり、そしてグリオーマという病を持っている」、それが、僕自身に対する正しい『名前』です。
ときどき、弱気になると、「グリオーマのjiveくん」になってしまいます。でも、それは違います。
僕は、僕自身であって、病気の付帯物ではありません。
いろいろ不便もあるけれど、そういう部分も含めて、僕は、僕自身なのだ、そう強く思い続けたいと考えています。
(2008.10.13 jive宇都宮)